ISTINTO Order Exhibition −革を染める人− -1-
こんにちは。
あっという間に4月も後半戦。
黄金の一週間が見え始めている今日この頃、
mienisiにて特別なイベントをご用意しました。
“ISTINTO Order Exhibition”
2022.4.29〜5.11(無休)
素材に刻まれた『いのちの証』を
あるがまま継承し表現する
“ISTINTO(イスティント)”のモノづくり。
都内初となる今回のオーダー会に向けて
その詳細をできる限りkakimonoで綴っていこうと思います。
ただひたすらにそしてひたむきに
「皮」と「革」に向き合ってきた彼の軌跡を
ぜひ見届けていただけたら。
※online orderも同時受付中、InstagramやMail等でご連絡ください
2021年11月某日。
私は、ISTINTOの作り手・熊藤氏がアトリエを構える
長野県安曇野市へ車を走らせていました。
広大な山々に囲まれた、自然豊かな地。
澄んだ空気が心地良いこの場所は
彼の生まれ故郷でもあります。
金属工芸と陶芸を専攻する学校に進学した彼ですが
“皮”と“革”に魅了され
結局、卒業後は働きながら独自に革工芸を追求し始めます。
しかしそれだけでは何かが足りないと感じた彼は
師なる人物を探し出して数年間師事します。
いわゆる丁稚奉公に近い生活。
まさに修行のような日々をようやく乗り越え
晴れて独立、自身のレーベル“ISTINTO”を立ち上げました。
高速道路を降りて田んぼ道を走ること約20分。
樹齢350年を超える大きな大きなイチョウの木が
私達を出迎えてくれました。
お知り合いの素敵なおばあちゃまから借りているという
元商店の古い一軒家が彼のアトリエ。
内装などはほとんどそのままだそう。
取り残されたように存在する和室が印象的。
彼の人柄を表すかのような
丁寧に並べられた仕事道具達。
外光で輝く縫製用のミシン。
彼の相棒です。
モノづくりは孤独との戦いでもあります。
雨の日も風の日も
経験と感覚を頼りに
一人でミシンを踏み続ける。
作り手のアトリエにお邪魔すると
ふと、そんな光景が頭を過ります。
こちらは革漉き用の機械。
彼のアトリエには大小様々な仕事道具が存在します。
後ほど詳しく綴りますが
ISTINTOは“革を染める”作り手。
そのモノづくりへのアプローチは
通常のレザークラフターとは大きく異なります。
ただでさえ様々な道具が必要な革工芸ですが
彼はより多くを整えなければならない。
この“はじめの一歩”を踏み出すには
相当の覚悟が必要だったはずです。
紆余曲折あって今があるのだと、これまた勝手に思い耽る。
染色前のいわゆる「ヌメ革」。
繊維の流れが目で見て分かりますね〜。美しい。
喋りながら次々と革を出してくる彼。
それだけ想いと拘りが詰まっているのでしょう。
独自のレシピでオイルを施している、
ISTINTOオリジナルのヌメ革。
この素材達が彼のモノづくりを支えています。
散々、革を見せてもらった後に
実はこんな物も・・・と
おもむろに持ってきた一枚。
これ、なんだと思いますか?
実は染色前の『コードバン』。
泣く子も黙る革の宝石。
しかしこの状態の物は初めて目にしました。
たまらず触れてみると、
革とは思えないスベッスベな手触り。
『これ一枚でとんでもなく(値段が)します(笑)』
ですよね(笑)。
それなのに何を作るかはまだ決めていないと話す、彼。
振る舞う宛も料理も決まっていないのに
最高級の食材を買い揃える。
もはや革に侵されているのでしょう(笑)。
つまるところ「革オタク」なんです、彼は。
普通の“好き”を飛び越えてる。
料理人が食材を知る事は当たり前ですが
その深さには「差」があります。
味や調理方法だけではない。
その食材にはどんな成分が含まれているのか。
どのように育ち、そして届けられているのか。
それは革工芸においても同じ事が言えるのです。
「皮」から「革」へと成るまでに
どのような工程が“理論的に”存在しているのか。
そもそも“革”とはなんなのか。
それらを知らずして
“革を染める”事はできません。
彼の手仕事は単なる薬剤の塗布にあらず。
思い描く色と質感の追求とは
もはや科学に近い話になります。
製品染めの技術や情報は門外不出のため
詳しい内容はココではお話しできないのですが、
“タンナーと同じ染色技法を用いる事”
そしてその上で、
“裁断から成形までを一貫して行える事”
その二つを兼ね備えている事が
彼の特異な点です。
数多に存在するレザークラフター、
あるいは革に薬品を塗布して仕上げる作り手、
それらとは似て非なる存在。
ISTINTOとは“本能”の意。
人が本能的に美しいと感じる“自然”を
“カタチ”にしたものが熊藤氏の作品であると私は捉えます。
彼の根底には
“自然に生かされている”という感覚があります。
それは日々の営みが自然と隣り合わせである
彼の出自ならではの感覚です。
生きる事、即ち『自然との調和』。
だからこそその恩恵で成り立つレザープロダクトに
彼は誰よりものめり込んでいったのでしょう。
最も大切にしている染色、つまり“色”も
自然の中にある色と自分の感性とを掛け合わせて
構築していくと話します。
彼の作品を手に取るとなぜか心地良い。
つまり、そういう事なのかと。
今回のkakimonoはこんなところで。
次はより専門的な話を綴っていきますね。
次のお話:-2-