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2023 春の染め直し −京都西陣・染一平−

2022年10月。

西の都・京都へと足をのばしたのは

ちょうど今のように夏と冬とが交互に顔を出すような

そんな季節だった事を思い出します。

きっかけはいつも、突然の出会いから。

『服屋mienisiといえば?』

そんな問いの第一候補に

そろそろ上がってきてもおかしくないはず。

“古着の染め直し”

大切に愛でられてきた衣服達を

これからもより永く、深く、

ご愛用いただく為の大切な営み。

まだまだ『染め直し?』と首をかしげる人も

少なくないのが現実ですが

店を初めてから継続的にご提案してきた甲斐もあり

徐々に徐々に、特に直接いらしてくださる方々には

着々と根付いてきたように感じています。

 

そんな私達の想いがついに実ったのでしょう。

去年、とある人物との出会いがありました。

“京都西陣・染一平”

立命館大学で染色化学を専攻し

卒業後は大手アパレルの生産管理に従事。

染色整理・生産技術を各地の工場で実践的に身につけながら

予てから構想していた工芸と工業を組み合わせる

“京ノ染め屋”の新しい形を模索するべく

令和元年に独立を果たす。

染め(と喋り)への拘りとクセの強さは

何者にも引けを取らない若き染め師が

今回の立役者となります。

 

日本初の“両面抜染”の風呂敷製造に成功した

京都の老舗風呂敷問屋を祖父とする彼は

由緒正しきサラブレット。

・・・会話する限りは怪しげで口達者な関西人にしか見えませんが笑、

幼き頃から伝統工芸の膝下にその身を置いていた事で

“染色”という扉を自然と開いていく事となります。

“染一平”の独自性。

一言で表すならやはり“染め色”となりますが

それを可能にするのが京都という特異な地です。

古くから伝統工芸が栄え

歴史的建造物も数多く存在する古都。

今も手工芸的材料を取り扱う問屋が数多に存在する、

いわば“素材が集う場所”です。

 

例えば、京都といえば寺院ですが

それらの建具に使用されているのは

あの「べんがら染め」のべんがらや

「白染め」の胡粉、「柿染」の柿渋など

聞き覚えのある天然染料ばかり。

そしてそれらは補修や修繕などで

今なお使用され続けています。

 

絵馬所で有名な北野天満宮。

各所によくよく目を凝らしていくと、

 

 

べんがらの赤や、

 

(白く塗りつぶされている部分の)胡粉など

やはり至る所に染の痕跡が在ります。

神聖な場所を彩るものですから

普通ではない材料の確保、

つまり卸問屋の重要性については

語るまでもありません。

 

もちろん、寺の住職が着る袈裟や作務衣、

舞妓さんのお着物なども例外ではなく。

客注を受ける専門の呉服屋を始め、

原料の調達・紡績・染色・製織・加工・縫製と

場所によっては家続きで分担を分けて

手掛けられていたそうです。

伝統工芸が盛んであるという事は

伝統産業が盛んであるという事。

そんな特異な地域性に目を付け

独自のルートで手法や素材を開拓・開発しているのが

“染一平”の強みでもあります。

さて、そんな彼のアトリエに訪問するのが

本記事冒頭となります。

位置するのは京都の西陣と呼ばれる場所。

曰く、“閉ざされた”地域だと彼は話します。

祇園や四条といった観光地とは全く異なる

一見は人通りの少ない閑静な住宅街。

しかし赤提灯がぶら下がっている建物は

なんと全て営業中のお店だそうで。

看板が出ているところはまだしも

果たして何屋なのかも定かでない店が

数多く立ち並んでいました。

「知る人ぞ知る」というより

「部外者お断り」な空気感。

元々は色町としても栄えていたため

その名残も雰囲気に繋がっているのでしょう。

そもそもこの「西陣」とは具体的な地名ではありません。

実際の範囲はかなり感覚的で

その起源は室町時代に遡るとの事。

歴史好きな方は色々調べてみてください。

個人的にはやはり「西陣織」として聞き馴染みのある場所。

デザイナーだとMIHARAYASUHIROがコレクションに使用した事で有名でしょうか。

今では世界の名だたるビッグメゾンから受注が入る

京都ならではの織物の芸術品。

 

そんな通りをひたすら抜けて行くと

いよいよ彼の主戦場である古民家の登場です。

 

やはり看板は出していないようです。笑

 

素晴らしいご縁で賃借しているという

元・絣整形工房の跡地。

それを自ら改装して使用されているそうですが

随所にその痕跡が残されています。

例えば最初に載せた白黒写真、

あの縦に長い作業場は

反物の長さを考慮した設計だったりします。 

 

各所に散らばる糸や糸枷用具。

 

しかしふと傍を覗くと

大きな寸胴が鎮座していたり、

元々台所だったような場所には

染色用の道具がずらりと。

漂ってくるのは

染色用の果実や草木、そして媒染液の匂い。

うーん。いいですねー。

2階へ上がると屋根裏のような部屋が。

縦長な作業場のちょうど真上に位置します。

ここは昔の丁稚奉公のような

寝泊まりに使用されていた部屋なんだとか。

この天井の迫り方に納得です。

薄暗い部屋に唯一の救いを設けたような

小さな天窓が印象的でした。

 

しばらく雑談したのち、本題に。

多種多様に存在する染め見本や染料。

様々な染色を全てお一人でこなしているというから驚きです。

小回りを利かせられる体制と

長年培ってきた技術や知識が

類稀な染色を生み出しています。

 

『誰もやらないような事をやりたい』

事あるごとにそう話す彼。

かつて誰もが知るような大企業で働いていた頃

「この色いいな」「こんな加工面白いな」と

思いついた事を形にしようとするも、悉く却下。

「色が安定しない」「色落ちする」

「個性の強い染色は求めていない」

そんな言葉ばかり浴びせられてきたと言います。

“こんなにも美しい染めがあるのに”

染色を知れば知るほど矛盾に悩み

ついに一つの疑問に行き着きます。

“果たして周りの言葉は真実なのだろうか?”

だから彼が立ち上げた“染一平”には

そういった大量生産・大量消費の姿勢に対する

強いアンチテーゼが根底に垣間見えます。

徹底的な少数精鋭生産。

年間染色着数をきっちり定め

必要以上に広める事を良しとしない。

有象無象に存在するものではなく

一着一着を特別な想いが込められたモノにする。

その為に、共に歩む創り手までもを

「あっ」と驚かせるような

意外性のある素材や技術を取り入れる事。

“染色”そのものの意義を高めようと

日夜研究、奮闘されています。

まだまだ未知の世界である“染め”

その奥深き魅力を

彼とmienisiで行なう4月企画展で

少しでもお伝えできればと思っております。

さて、その詳細については次回のkakimonoにて。

 

 

次の話:2023春の染め直し

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