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灰草 −有為自然Ⅱ−

一つ前のお話:−

“灰草(ハイクサ)

前回のkakimono掲載後、

有難い事に灰草について

多数のお問合せや御縁をいただきました。

やはり書いて良かったんだな、と

皆様のお陰でその実感が湧きました。

今やインターネットを駆使すれば

手に入らない情報の方が少ない時代です。

クローズドからオープンな見せ方へと

ファッションに限らず様々な分野でその動きは加速しています。

 

しかしなにぶん、天邪鬼な性格でして、、、

情報が広まりすぎたり

簡単に集まるようになればなるほど

ファッションがつまらないものに感じてしまう瞬間が私にはあります。

「着たらどんな感触なんだろう」

「着ていく事でどんな変化を遂げるのだろう」

「私自身はどのように変わっていくのだろう」

そんな“未知”や“余白”を

私は着るアートたるファッションには残したいと思っていますし

何より説明云々ではなく「着て伝えたい」のです。

 

だからこそ灰草を

そんな時代の流れと逆光するような作り手を

kakimonoに綴る事には正直戸惑いもありました。

ですが

デザイナーやブランドの歩みを知れば知るほど

“灰草という異質な存在を伝えたい”

そんな想いに駆られていったのも事実です。

デザイナーが挑む果てしない道のりと

生まれてくる唯一無二の衣服達。

その魅力の一欠片だけ

皆様には言葉でお伝えできればと思いますので

本質は、自らの目と手でご体感ください。

御託はここまでにして。

今回はより作品そのものにフォーカスして

ご紹介していきたいと思います。

 

・・・が、その前に一つ補足を。

当店に入荷する灰草の作品は

「生地・型・染め・仕様」を

mienisi独自に組み合わせたオーダーとなっています。

いわば全て「別注品」のようなもの。

二つと同じモノが存在しない事が多いので

今回のkakimonoでも

現時点でstockしている作品を中心にご紹介しています。

どうか一着一着との出逢いをお楽しみいただけますように。

※全てsold out。ありがとうございました。

 

それでは、まずこの子から。

Item:Haori Coat
Fabric:Wool Linen Herringbone
Button:洋白
Dyed:sumi
sold out
 

「灰草とは?」

そんな問いに答えるとしたら

私は真っ先にこの“Haori Coat”を挙げます。

和洋折衷のオーバーコート。

元々、長着(着物)を着用していたデザイナーが

「今」着たいカタチは何なのか、と

自問自答の先に生まれた型でした。

当店でも幾度と無くご紹介しておりまして

片や日常使い、片や着物に合わせたい、など

多様な人々へ旅立っているコートです。

 

長着特有の平面的な雰囲気は見せますが

アームの湾曲具合を見れば一目瞭然。

構成は非常に立体的で

あくまでも「洋服」として仕立てられています。

独特の衿ぐりや、肩から袖にかけて流れる曲線も

首や袖に沿うように作られており

まさに“包み込まれる”という表現がふさわしいコート。

そしてそれは

「見返し」が無い作りからも感じさせます。

これは製品染めをする灰草にとって

非常に厄介な要素の一つ。

なぜなら表地と裏地では

染色による「縮率」が異なる為です。

1mm間違えれば裏地が飛び出してしまうリスク。

しかも灰草はシーズン毎に

表地に合わせて裏地まで変更するので

表と裏の綿密な計算式が

その都度、必要になる事を意味します。

「見返し」さえあれば

それらの作業は全て無くなるはず。

しかし決してそうしない事に

デザイナーの強い意志を感じます。

全ての作品に付くネームタグが手刺繍なのは

もはや言うまでもありません。

女性モデル:158cm

このコートの最たる異質さは

いわゆる「原型」や「用尺」を無視した

大胆かつ贅沢な布使いにあります。

普通は生地面積を考慮した上で

「最大効率」での生産を目指します。

つまり、一反に対して何着作れるか、という勝負。

その分コストも価格も抑えられるからです。

しかしこのHaori Coatは

そういったある種「商業的」な考えを

一切排除して生み出されています。

いわば

“ただただ作りたいモノを作った”

という事。

そしてそれはこのHaori Coatに限らず

灰草の作品全てに当てはまる言葉でもあります。

「見返し」しかり、

灰草を灰草たらしめているのは

生地や染めの表情といった“見た目”ではなく

この制作の根底にある“想い”こそだと

私は思うのです。

身体に纏う事で

その贅沢な生地使いがより伝わるかと思います。 

こうなるとネックになるのは「重さ」ですが

軽量なウールリネンを選ぶ事で解消しています。

男性:175cm

Item:Haori Coat
Fabric:Wool Linen Herringbone
Button:洋白
Dyed:sepia
sold out
 

同生地で染め違いの一着。

ウールの製品染めは

独特の雰囲気を醸し出すのが魅力で

このsepiaはまさにそれを狙ったもの。

当店が別注したKLASICAのシャツや

今季新作のLENSEのTrousersとも

相性良し、です◎

またこちらのHaori Coatに関しては

5cmほど着丈を長くしているので

よりオーバーなサイジングをお楽しみいただけます。

Item:Furisode Shirt
Fabric:Cotton Voile
Button:真鍮
Dyed:haiao
sold out
 

Haori Coatと共に

ブランド立ち上げ初期から展開され続けている

いわば灰草の原型とも言うべきシャツが

この“Furisode Shirt”。

同じく和洋折衷の一着で

用尺のロスも多い、贅沢な作り。

所謂シャツらしい立体的な身頃やディテールと

「振袖」の平面的かつ独特の袖をミックス。

言うは易く行うは難し。

直線と曲線を繋ぐための“キモ”となる袖ぐりには

デザイナーの試行錯誤の跡が垣間見えます。

生地は綿100%のボイル地。

強い撚りをかけた細い強撚糸を高密度に織り上げ

表面に縮緬のようなシボ感を演出したもの。

特有のサラッとした肌触りで真夏も快適。

控えめな透け感が

染め色に“揺らぎ”を与えています。

衣装的雰囲気も漂うシャツですが

ボタンを開けてカーディガンのように

サラッと羽織るのもおすすめです。

Haori Coat同様、背中心のタックによって

生地は立体的な広がりを見せてくれます。

美しい染め色を身に纏う悦び。

灰草の魅力をギュッと凝縮したような一着です。

Item:Coal Miner Shirt
Fabric:Linen Satin
Button:真鍮
Dyed:haiao
sold out
 

青が続きます。

衿、袖、裾、ヨークなど

随所をカットオフしたスタンドカラーシャツ。

コールマイナーとは炭鉱夫の意ですが

実際に彼らが着ていたシャツ、ではなくて

ブルーワーカーとしての激務を終えた

そののちの“姿”を捉えた一着。

元々は付いていたであろう衿の作りには

ワークシャツの原型が見えてきます。

「リネンサテン」とは言葉の通り

麻糸を繻子織に仕上げたファブリック。

元々、奥ゆかしい艶が存在する麻素材ですが

サテン地にする事でその特徴がより顕著に表れ

染め色にまで艶が演出されるようになります。

灰草、というと

粗野な生地感をイメージされる方が

多いのではないかと思いますが、

先ほどのコットンボイル地同様

このような塩梅も非常に美しい。

作り手の個性や趣向は

デザイン上の分かりやすい部分だけでなく

衿やヘム、そしてヨークといった

各所の「線」から見えてくる事があります。

“灰草らしい曲線”

としか表現できない

デザイナー本人にしか描けないニュアンス。

個人的にとても好きな部分です。

Item:Bowknot Waistcoat & Three Tuck Trousers
Fabric:Alternate Stripe
Button:真鍮
Dyed:−(Natural)
sold out

Item:Haori Coat 
Fabric:Slab Cotton Yarn
Button:真鍮
Dyed:−(Natural)
sold out
 

やはりスタンドカラーシャツの醍醐味は

着合わせでしょうか。

黒やグレーに見栄える青。

普通の藍染めとは全く異なる印象を持つ

灰青ならではのカラーグラデーション。

思い想いに着ていただけたら本望です。

Item:Accordion One-piece
Fabric:Salt Shrink Broad
Button:真鍮
Dyed:sumi
sold out

無数に刻まれたギャザーが

アコーディオンの蛇腹を彷彿させる

類稀なドレス。

その異質さはすでに立ち姿から漂いますが

実は様々な箇所に意匠を潜めた一着でもあります。

まず、このドレスは「総裏地仕様」です。

羽衣のように薄い超細番手のコットン生地が

その裏にはぴったりと縫い合わされています。

言って終えばほとんど「コート」。

表からは決して分からない、贅沢な仕立てです。

総裏であるにも関わらず

縫い代が見えません。

「どんでん返し」

表と裏の生地を中表で合わせて縫い

最後にひっくり返して始末する技法。

つまりリバーシブルの作りですね。

縫い代が残らない特性を活かし

筒状に仕上げられたドレス。

できる限りの「線」=「作為」を消しています。

デコルテを美しく彩る

まるで象形文字のような衿開き。

これを保つためには

最後の仕上げが必要です。

「星止め」

写真にて

衿ぐりに施された粒のようなステッチ

見えるでしょうか。

テーラーにも用いられる手縫いの技法で

一針一針、丁寧に縫われています。

果てしない手作業の工程を乗り越え

ようやく一着のドレスが見えてきました。

荘厳たる美しさ。

用尺的にもこれまた非常に贅沢な一着です。

Item(inner):Night Shirt
Fabric:Cotton Voile
Button:真鍮
Dyed:sepia
sold out

もはやコートなので

羽織るだけでも構いません。

紙のような薄さとパリッとしたハリ。

表地には「塩縮コットンブロード」を使用し

総裏ですが重さはありません。

着込む程に馴染むこの生地の魅力も

灰草の特別なドレスを楽しむ為の

大切な要素です。

Item:Wide Ankle Pants
Fabric:Wool Linen Bumpy Herringbone
Button:真鍮
Dyed:Kakishibu×sumi
sold out

灰草が一番最初に仕立てたパンツであり

今でも変わらない輝きを放つ型。

実は私自身が最初に手にした一着も

この“Wide Ankle Pants”でした。

作る側にとって

ボトムスは非常に厄介なアイテムです。

トップスに比べてディテールが複雑で

にも関わらずアウターの値段では販売できない。

これは灰草に限らない話ですが

メンズ服におけるボトムスの作り込みの「差」は

一つの指標になると個人的には思っています。

故に、灰草で一番最初に試着したのもパンツでした。

足を通し、鏡の前に立って、すぐに理解。

全てを自身の手で完結させているとは感じさせない程

丁寧かつ美麗な線を描いていたのです。

男性:175cm

総裏仕立てのウエストゴム仕様。

男女問わず、基本的にフリーサイズでご着用いただけます。

アンクル丈のテーパードパンツは

何着持っていても困らない万能選手。

裾のレイヤードが「らしさ」も主張します。

男性:175cm

Item:Classic Shirt
Fabric:Slab Back Satin
Button:真鍮
Dyed:Gen
sold out

男性:175cm

もはや語る事も無いですね。

様々に楽しめる一着です。

ファブリックもスペシャルです。

経糸にリネン2種、緯糸にウール2種という

4種の異なる番手の糸を織り上げ

独特の凹凸感と粗野さを演出した

灰草オリジナルのヘリンボーン。

織物の聖地である尾州で生産されています。

これに染色を施すと、、、

黒いウール糸は染まらず

白いリネン糸だけに色が通っているのが分かります。

糸の違い、素材の違い、染まりの違い。

様々な要素が複雑に絡み合う事で

感じた事のない“奥行き”が

衣服には刻まれていきます。

Item:Ilur Robe
Fabric:Linen Silk Pilling W Cloth
Button:土
Dyed:Kakishibu × sumi
sold out
 

今回のkakimono

かなり長文となってしまいましたが

いよいよ最後のご紹介です。

「商品」ではなくより「作品」に近づいた

プリミティブな一着。

辛うじて洋服としてのバランスを失わない塩梅で

できる限り人為の痕跡を消し

そこにあるものをあるがままに縫い立てたような

そんな衣服です。

歪んだ袖や裾、そしてポケット周りは

先ほど書いた表地と裏地による「縮率」の違いを

敢えてそのまま活かしたもの。

“ディテール”とは言えない微かなニュアンスを

自然の成すがままに付与しています。

そして、生地。

シルクとリネンの二重織り生地の「糸」を

無作為にピリングさせた

灰草のオリジナルファブリック。

「粗野」という言葉を超えて

「古布」のような出立ちのこの生地は

染色の色出しが非常に難しい為

通常の倍以上の工程を経て

独特の染め色を施しています。

もう一つ、見落とせないのがボタン。

一つ一つ手捻りで作られた

「陶器」とも違う「焦土」のそれ。

何年、何十年と共にしたのち

生地と共に土に還るような

そんな光景がふいに浮かびます。

男性:175cm

Item(inner):No Collar Pocket Shirt
Fabric:Linen W Gauze
Button:真鍮
Dyed:Kakishibu×sumi
sold out
 

「着る」というより

「纏う」という表現がふさわしい。

できる限り作為的な要素を消しながらも

確かに漂う灰草の匂い。

この稀有な一着はkakimonoを書いている最中に

導かれるように旅立っていきました。

 

“有為自然”

前回のkakimonoの通り

染色からボタン制作に至るまで

灰草の営みをじっくりと見てきましたが、

その根幹となっているのは

やはりデザイナー自身の「人」と「なり」でした。

自然の成り行きに任せた

限りなく作品に近い衣服でありながら

着る人の事を決して忘れない暖かさ。

作為と無作為の間。

機械的に生み出すのではなく

全てを自身の手によって施すからこそ

初めて血が通うのだと思います。

 

灰草の作品群、いかがでしたでしょうか。

今後も不定期ではありますが

灰草の入荷時期にはInstagramだけでなく

ここkakimonoでもご紹介できればと思っています。

上記の通り

一着一着に込められたアレやソレやに限りが無い為

時間の許す限りとはなりますが、、、

気になられた一着がございましたら

是非とも店頭にてお待ちしております。

 

 

前のお話:−

 

 

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